数日後、ブライダルフェアの成功を祝おうと、仕事終わりに飲み会が開かれた。

 その日は平日で挙式もなく、オフィスで事務作業をしたり、見学のカップルにプランの説明や施設の案内をしたりと、比較的穏やかに仕事を終えた。

 私服に着替えると、皆で歩いて中華街に向かう。

 フェリシア 横浜がある元町からは、徒歩15分程で中華街に着く。

 久保は、個室を押さえてくれていた。

 「ではでは、色々ありましたが、ブライダルフェアの成功を祝して…」
 「かんぱーい!」

 あちこちでグラスを合わせる音がする。

 ひと口飲むと、一斉に拍手で互いを労った。

 「いやー、モデルさん来なくて一時はどうなる事かと思ったけど、なんとか乗り切って、結果オーライだったね」
 「ほんと。しかも、たまたまあのイケメンの人がいてくれて、良かったよねー」
 「そうそう!お客様、うっとり見惚れてたよね」
 「この時期に2/3の割合でご成約取れたのは、あのかっこいい新郎役のおかげよねー」

 美味しいお酒と中華料理を食べながら、皆はワイワイと盛り上がる。

 すると向かい側に座った希が、ふと真菜に声をかけてきた。

 「ね、真菜。大丈夫だったの?ほら、挙式の時の誓いのキス」
 「ゴホッ!そ、それは…」

 思わず真菜は、飲んでいたビールにむせ返る。

 (あー、せっかく忘れてたのに。思い出しちゃったよー)

 ハンカチで口元を押さえながら、ふうと真菜がため息をつくと、希は、やっぱりと呟く。

 「真菜、本当はほっぺにしてもらうつもりだったんでしょ?だからびっくりしたのよ、私。でも、あのキスであの場にいた女の子達、みんなうっとりしてたわよ」
 「そ、そうですか」

 真菜は、自分の顔が真っ赤になるのが分かった。

 「んー、とにかくお疲れ様!良く頑張ってくれたよ」

 希の言葉に、はあ…と頷く。

 「フェアが成功してくれて、本当に良かったです」
 「そうね。みんなはあの新郎のおかげだなんて言ってるけど、私は誰よりも真菜のおかげだと思ってるよ。ありがとう」
 「希先輩~」

 不覚にも、真菜の目から涙が溢れる。

 「わ!ちょっと、泣かないでよ。ね?今日はもうジャンジャン飲みな!」