次の週。
 拓真が真菜の住む寮に引っ越して来た。

 部屋番号は302。
 真が住んでいた部屋だった。

 (そりゃそうだよねー。滅多に空きが出ない寮だもん。空いてるとすれば、先月まで真さんが住んでいたこの部屋だよね)

 そう思いながら、真菜は拓真の部屋の食器棚にカップやお皿を並べていく。

 「助かるよ、真菜が手伝いに来てくれて。何だかんだ、引っ越しって大変なんだな。そんなに荷物多くないと思ってたのに」
 「そうだよね、分かる。しばらくは落ち着かないかも。あ、私、夕飯作ってくるね。あとで届けに来るから」
 「おおー、悪いな。サンキュー」

 真菜は頷いて自分の部屋に帰ると、ナスやさつまいもを天ぷらにし、蕎麦を茹でてトレーに載せ、302号室に戻る。

 引っ越し作業を中断して、温かいうちに二人で天ぷら蕎麦を食べ始めた。

 「うまい!」
 「ほんと?良かった。やっぱり引っ越しの日はお蕎麦だよね」

 セレブは違うけど、と、真菜は真の引っ越しの日を思い出し、ふふっと笑う。

 「今日はありがとな、真菜」

 食後のコーヒーを飲みながら、拓真が真菜に礼を言う。

 「ううん。ほんの少ししかお手伝い出来なかったけど」
 「いや、充分だよ。あとは俺1人でボチボチやるわ」
 「うん。無理せずゆっくりね」

 すると拓真は、少しためらいながら口を開いた。

 「真菜、この間はごめんな。キツイ言い方して」
 「この間って?」
 「ほら、専務との事で…。俺、先走っちゃってあんな言い方。でも、真菜はちゃんと寮に帰って来たんだもんな。誤解してて、本当に悪かった」

 ううん、と真菜は微笑んで首を振る。

 「拓真くん、心配してくれたんだよね、私のこと」
 「ああ、うん。真菜、俺、これからは真菜のすぐ近くにいるから、だから、だからさ」

 拓真は、真菜の顔をじっと見つめた。

 「これからは、俺を頼ってくれないか?お前の1番近くで、俺にお前を守らせて欲しい。だめか?」

 拓真は、ゴクッと唾を飲み込んで、真菜の返事を待った。