「ふう、ただいま」

 誰もいない寮の部屋に帰ると、真菜は買い物袋の中身を冷蔵庫に入れる。

 (1人分の食事なんて、作る気にならないな)

 そう思いながら、今まで3年間、ずっとそうやってひとり暮らししてたのに、と苦笑いする。

 適当に夕飯を作って食べると、お風呂に入る。

 (やっぱりまだ怖いな。でも、もうすぐ拓真くんが引っ越してきてくれる!心強いなー)

 以前、拓真に真との関係を問い詰められ、気まずくなった事は、すっかり忘れていた。

 明日の仕事の準備をし、早々にベッドに入る。

 だが、やはり夜は怖くて寝付けない。

 (真さん、今日も電話してきてくれないかなー)

 そう思いながら、何度か寝返りを打った時、ふとローテーブルの引き出しが目に入った。

 「そうだ!」

 真菜は急いでベッドから降りると、引き出しを開けて封筒を取り出す。

 そこには、拓真が撮ってくれた、例の模擬挙式の写真が入っていた。

 「わー、真さんがいっぱい!かっこいいなー」

 以前は何も思わなかったのに、今は懐かしい様な照れくさい様な、色んな気持ちで写真をめくる。

 「ふふっ、素敵な写真だなー。あ、そうだ!」

 真菜は顔を上げると、引き出しからマスキングテープを取り出した。

 そして、写真をベッドの横の壁に次々とテープで留めていく。

 「ぐふふ、これで真さんに囲まれて眠れるー」

 ニヤニヤしながら貼っていたが、途中でピタリと手を止めた。

 「こ、こ、これ…」

 手にした写真に写っていたのは、誓いのキスの時の二人。

 (そうだ、私、キスしたんだ、真さんと)

 なぜ今まで忘れていたのだろう。
 しかも、自分にとってはファーストキスだったのに…

 (いや、忘れていて良かったのかも。でなければ、真さんと一緒になんて住めなかったもん)

 そうだ、良かったのだと頷きながら、とにかくこの写真はしまっておこうと封筒に戻した。