熊谷さんがメモ用紙に書いてくれた地図を頼りに、待ち合わせの場所へと向かう。会社の最寄り駅から、2駅のところにそのお店はあって、こぢんまりとした小料理屋で12人も入ればいっぱいになってしまうようなお店で、4人掛けのテーブルが3つ。それぞれが仕切られているので、不思議と落ち着ける雰囲気だった。
熊谷さんはまだ来てなくてお店の人に熊谷さんの名前を告げると、予約してあったらしく 席に案内された。
「何か、お持ちしましょうか?」
「いえ……来てからで」
「承知しました」
すると品の良い女将がお茶を出してくれて、お茶を飲みながら待っていると20分ぐらいして熊谷さんが姿を見せた。
「すぐわかった?」
「はい。でもビックリしました。あんな場所で……」
忘れないうちに、バッグから鍵を出して熊谷さんに返す。
「Thank you! だってああでもしないと、君と2人だけで会えないだろ?」
エッ……。
「白石から聞いてない?」
和磨から?
「あっ。そう言えば、熊谷さんがまた飲みに行こうって誘って下さった事は、和磨から聞きましたけど」
「でもきっと君の事だから、友達も連れて来ようと思ってなかった?」
熊谷さん。
「それは……」
すると熊谷さんが笑みながら、オーダーするためか手を挙げた。
「取り敢えず、ビールでいい?」
「はい」
昔ながらのおふくろの味とでもいうのか素朴な料理に舌鼓を打ち、明日も仕事なのでそんなに遅くならないうちにお店を出て電車に乗ったが、帰る方向が一緒なのでその点、少しだけ安心出来る自分がいた。
「それじゃ、ご馳走様でした。おやすみな……」
電車から降りようとした私の手首を掴みながら、熊谷さんも何故か電車を降りた。
「熊谷さん?」
「送っていく」
エッ……。
不意にこの前の夜の事が、頭に浮かんだ。別に嫌じゃなかったけれど、熊谷さんに彼女が居るのだとしたら、やはりそこだけはハッキリしておかないと彼女にも失礼だし、抜け出せなくなって辛い思いをするのも嫌だ。しかし、丁重に断ったが聞き入れられず、熊谷さんにまたしても送ってもらう事に……。
「白石とは 昔からの友達なの?」
「いえ……弟の友達なんです。だから小さい頃から知ってて」
「そうなんだ。でも白石は、君の事が好きみたいだよね」
はぁ?