和磨の言葉が、妙に心に引っ掛かる。焦ってるわけじゃない。ただ……。ぬるま湯に浸かったままズルズルとこのまま行ってしまいそうで、そんな自分が怖いだけ。早いに越したことない。30にもなってしまったことだし、せめて登録だけでもしておいた方がいいと思ったんだもの。
男なんて所詮、若い子がいいに決まってる。こんなひねた考え方をしてる事自体、すでにアラ・サーのどっぷりって感じだもんなぁ。恋愛に冷めてるわけじゃない。だけどそんな出会いもないし、夢中になれる男もいない。侘びしいねぇ……。でもウジウジしてても、始まらないしね。気を取り直して、検索、検索。未来王子を探すべくまた画面の検索を始め、没頭しているうちに休日は終わってしまった。
でも現実は、やっぱり厳しくて……。今朝も楊子を咥えたメタボなオヤジと、加齢臭とオヤジコロンの混ざった臭いで充満した部屋に足を踏み入れる。出るのは溜息ばかりで、掴みかけた幸せも逃げていきそうだよ。机の引き出しからペン立てなど七つ道具を出し、今週も始まった。
ん?
ランチタイムにはまだ早い10時過ぎ、事務所内の女子のヒソヒソ声に何事かと顔を上げると事務所の入り口がパッと明るく見え、この部屋にはおよそ無縁なオーラを放った人物が立っていた。
熊谷さん……。
「営業の熊谷さんだよね?やっぱり格好いいよねぇ。彼女居るのかしら?」
「居るに決まってるでしょ。ああいうタイプは、女には不自由しないわよ」
そんなヒソヒソ声が、後から聞こえてくる。何しに来たのかな?すると熊谷さんは入り口で事務所内を見渡し、私と目が合うと何とも言えない爽やかな笑みを浮かべ、その後私の席とは反対側の課長の席へと向かっていった。
な、何……。あの笑みは、反則だよ。普通の女なら、コロッといっちゃいそう。そんな普通の女なんだけど、私も……。ドキドキしてるよ、営業スマイルに。何でここまでときめきMAXなんだろう。
駄目だ、駄目。あの熊谷さんのペースに巻き込まれると、とんでもない事になりそうだから大人しくしてよう。気になって、気になって、本当は仕方ないくせにわざと下を向き、さも熊谷さんなんて見てませんとカモフラージュするかように、見てもいない書類に目を通してるフリをする。実際文字を見ても、何も頭に入って来ないのだが……。すると足音がだんだん大きくなって、熊谷さんがこちらに向かってきている事がわかった。