今まで見た空間にはほぼ何もないのに、この部屋だけオムツの山に、洋服もどっさり。

 ベビーフードも様々なタイプがダース単位で置かれている。
 おもちゃは店ごと買い取ったのではないかと思うくらいだ。柵付きのベッドや寝たまま遊べるマットなども用意されている。ベビーバスまであった。

「これ……」

「診察のあと、護孝に慎里の月齢……だっけ?……の子供に必要そうなものを教えてもらった。里穂が持っていないものを補充しようと思って」
 
 この部屋は、彼女が慎里に何も買ってやれてないことを、彼が知っていると雄弁に語っている。
 慎吾は沈んでしまった彼女を慰めるように言った。

「君一人で俺達の子供を育てさせてしまった、せめてもの罪滅ぼしだ」

 ……子育てに関われなかったのは彼のせいではないのに。

 申し訳なさや感動で口が聞けないでいる彼女に、慎吾は不安そうに訊いてきた。

「その、気にいったものがあったかな? なければ買い足すけど」

 ここまでしてくれたのに、まだ足りないのかと気遣ってくれる。
 里穂は泣いていいのか、笑顔をしていいのかわからない。だから、泣き笑いの顔を慎吾に向けた。

「すっごく嬉しい」

 買ってやりたくても買えなかったものばかりだ。里穂の言葉を受けて、慎吾は通り雨が過ぎた晴れ間の様に意気揚々となった。

「よし、善は急げだ。インテリアも今日揃えるぞ!」