「君の好みも聞かず、勝手に決めて悪かった」

 そのまさかだった。

「だって、その時貴方は」

 二人はまだ再会できていなかったし、ましてや。

「ああ。ようやく会えた時には他の男との子供がいると聞いて。払い終えたばかりだったが、ショックのあまり売り飛ばそうかと思ったよ」

 里穂は思わず笑ってしまった。
 なんて可愛らしいのだろう。

 敏腕秘書で有能な支配人で常に冷静な人物との評判なのに、里穂の前で見せる表情は喜怒哀楽に富んでいる。

 おそらく今、里穂の目の前にいるのが役職も家柄も関係のない、本当の深沢慎吾なのだ。
 こんな彼を知っているのは極親しい人だけに違いない。隠岐CEOや、彼のご両親。
 ――そして、自分だ。

「今日、慎里が俺の子供だと知って……、その。慌てて仲介業者に売却をキャンセルしたんだ」

 どきどきと心臓がうるさい。

 このひとは自分と住むために家を用意してくれ、子供がいるとわかったらすぐにここまで準備してくれたのだ。

 もしかして、とてつもなく愛されているのではないだろうか。
 思い上がるなと自分を戒めながらも、ときめいた。