里穂は、母子二人で出かける用に電動自転車を買わねばならないと決心した。

 そして、保育所に到着した。

 時間がおして、「お願いします」といつもより乱暴に我が子と荷物を保育士に預けてしまったが慎里は大人しくバイバイ、と手を降ってくれる。

 助かったけれど、拍子抜けした。

 ぐずってくれる方が愛されていると実感してしまう自分はひどい母親だな、と思う。

 ホテル学校が終わり、お迎えに行くと慎里がキョロキョロと周りを見る。

 迎えが里穂だけだとわかったようで、大人しく里穂に抱っこされた。

「何か変わりはありませんでしたか」

 里穂が保育士に訊ねれば質問を返された。

「珍しいですね、お母さんが朝も夜も送り迎えされるのは。ご主人は残業ですか」

 大抵、朝は二人で息子を預けにきてギャン泣きされ、夕方はどちらか早い方が迎えにくるのがスタイルだった。

「今日から父親が出張なんです」

 ああ、と保育士は得心がいったようだった。

「それでですね。やたら僕ら男の保育士に抱っこされたがるので、珍しいなと思ってたんです。それなのに、抱っこするとすぐ降りたがるんです」

 パパを探してたんですね、と言われて里穂は泣きそうになってしまった。

「失礼します」

 涙を見せたくなくて足早に去る。

 朝みたいな思いを慎里にさせたくない。贅沢と思いつつ、タクシーに乗って帰宅した。