別れて15年 〜35歳の2人〜

「もしもし?もう莉乃(りの)寝た?」

盛り上がる中学同窓会の終盤、私は外へ出て風に当たり酔いを覚ましながら、旦那の樹(いつき)に電話をする。4歳の娘の莉乃が、いつもは寝ているこの時間に母である私がいなくても寝れているか気になっていた。

「まだ。お義母さんに絵本読んでもらって眠そうにはしてるよ。桃(もも)はもう同窓会終わったの?迎えに行こうか?」

「うん、もうだいぶ落ち着いてきたから、私も眠いし帰りたいけど...うーん、でもせっかく莉乃が眠そうなのに車の音したら目覚めちゃいそうだから、莉乃が寝たら迎えお願いしてもいい?」

「分かった、寝たらまた連絡するね」

家族で田舎にある私の実家に帰省中、たまたま同窓会があったので、同じく帰省していた親友の美羽(みう)に強引に誘われ一緒に参加していた。私の両親と樹は仲が良く、私がいなくても上手くやってくれるのがありがたい。

「う~んんっ、飲みすぎた~」

久々に飲んですっかり酔いも回り、眠くなっていた私は、電話を終え近くの椅子に座り込み、少し休むつもりが眠ってしまっていた。


...あれ?この匂い知ってる...
いつの...誰の...だっけ...

遠い意識の中、どこか懐かしい香りと、なぜが鼓動が早くなるのを感じ次第に意識が戻ってくる

目を覚ますと、寝ていた私に誰かのジャケットがかけられていた

意識がはっきりした瞬間、自分でも驚くが誰のジャケットかすぐに分かってしまった

胸の鼓動が早くなる
あれから15年経っているというのに...

「あ、起きた?」

顔を覗き込んできた、この男性。
ジャケットを私にかけた人。

私の15年前の元彼。
「これ、ありがとう」

真っ直ぐ目を合わせられず、視線を外しながらジャケットを返す。

「え、なんで俺のジャケットって分かったの?」

素直に驚いている様子の悠(ゆう)。

異常に速い鼓動を必死に抑え、冷静を装う。

「ん~、なんとなく?当たった?笑」

笑ってみるがぎこちない。

無理もない、
"あなたの匂いがした"なんて言えない。
15年前の当時の情景が一瞬で思い出されて、大好きだった人の大好きな匂いがしたなんて。

そんな私の心情を知ってか知らずか懐かしい笑顔で話し出す。

「当たりだわ、すごい勘だな!
てか、久しぶりだな。元気だった?」

「うん、元気。
シワとシミが増えたけど」

「あはは、桃は童顔だからまだまだ若いよ」

桃...名前を呼ばれてまたドキっとする。

「悠は?元気だった?」

「おー、元気元気!まだまだ現役で自転車乗ってる」

そう、悠はプロの競輪選手。
まだ自転車は高校の部活でやっていて、プロを目指している、その頃から4年間私たちは付き合っていた。

私たち2人が話していると、当時を知る旧友たちがチラチラこちらに視線を向けてくる。

あ、そうだ。

「今日、高橋さんは...?」

「あ、あー、息子が体調悪くて欠席。家にいるよ。高橋って旧姓久々に聞いたわ!」

高橋さんは悠の奥さん。
私も悠も高橋さんも同じ中学の同級生だった。
高橋さんとはほとんど接点がなく、ほぼ同級生は名前で呼び合う年代だったが、"高橋さん"から"葵(あおい)ちゃん"になることはなかった。

奥さんが高橋さんなのも、息子くんがいるのも、風の噂で知っている。

田舎あるあるだろうが、どんな情報も勝手に入ってくる。知りたかろうが知りたくなかろうが、勝手に。

だから、悠と私が付き合ったのは高校に入ってからだったが、中学の同級生も私たちが付き合っていたのを皆んなが知っている。

もし、今日私たちが話しているのを高橋さんが見たら嫌な気持ちにならないかが気になった。

久々に話すことにドキドキしているとは言え、もう15年も前に終わった関係、特別踏み込んだ話をしているわけではないが、奥さんが嫌がるなら話すべきではないと思った。
しかし奥さんがいないからか、特に何も思ってないのか、悠は私と話すことに戸惑いはなくあれこれ聞いてくる。

「桃は?結婚したよな。仕事は?あれ、どこに住んでるんだっけ?地元じゃないよな?」

「質問多すぎ!
結婚出産はしたけど、東京に住んでるのと保育士してるのは変わってないよ」

「あはは、ごめん、懐かしくて。
歳とったなー、俺らも。
最後に会ったのはたちの頃か...」

「そうだね、もう15年経つね。
年も重ねたし、家族もできたし、
お互い大人になったよね〜」

賑わう周りに合わせて私も明るく話す。

「...また話せると思ってなかった。」

さっきまでとは違う、急に真剣な表情を見せる悠。

あ、きっと同じこと思ってる。

あんな別れ方だったから。

私たちはもう2度と会うことはないと思っていた。


「あのさ...」

悠が何か言いかけたと同時に私の携帯が鳴った。

「あ、ごめん、電話」

悠に背を向け電話に出る。

「もしもし?あ、うん、莉乃寝た?
分かった、待ってるね」

「旦那?迎えに来るの?」

「あ、うん。今、旦那も娘も一緒に実家にいるから、あんまり遅くならないうちに帰ろうかと思って」

「そうだな、それがいい。もう酔っ払いだらけで、智樹(ともき)なんてあそこで潰れて、美羽に引っ叩かれてるぜ」

悠の表情は戻っていて、後方にいる智樹を見て笑っている。

何を言いかけたのか気になったが、聞いてはいけない気もした。

私たちは智樹と美羽にかけ寄る。

「美羽、私先帰るけど大丈夫?」

「うん、大丈夫大丈夫〜
樹くんと莉乃ちゃんによろしくー!」

「美羽も北斗(ほくと)さんいないからって帰り遅くならないようにね!」

「分かってる!」

悠は智樹の体をゆする。

「おい、智樹!こらー!起きろー!
美羽、手伝え」

「はいはい、手がかかるなぁ!もう!
じゃあ、また連絡するね、桃!」

「うん、バイバイ」

チラッと悠を見ると、ニコッと笑い
「気をつけてな!」と手を振る。

偶然の再会は、ドキドキして昔を思い出すちょっぴり嬉しく緊張した時間だった。



それで終わるはずだった。
「楽しかった?」

車の中で樹が聞く。

「うん!でも、もう若くないね、疲れちゃった〜」

「あはは、残念。でも、タイミング良く参加できて良かったね」

「うん....」

嫌な顔一つせず、同窓会に送り出してくれて楽しかった?って聞いてくれる樹。

いつも私ファーストで、愛されてるって自信持って言えるくらい、安心をくれる。

親より自分のことを大切にしてくれる人がいるなんて思わなかった。

悠のことも昔話したことがあったけど、今日悠がいたのか、何か話したのかも聞いてこない。

私も敢えて話すことでもないと思い、悠に会ったことは伏せた。

「俺も、桃の中学時代に出会いたかったなぁー」

「ふふ、何言ってんの。
私たちは大人になって出会ったから結婚できたんだと思うよ」

「中学に出会ってたら結婚までいかなかった?」

「多分ね。出会うタイミングってあると思うよ。私たちはベストタイミングで出会ったと思ってる」

「そう?なら、いっか!」

本当にそう。タイミングって大事だと思う。

出会う時期や順番が違ってたら未来は変わってたんじゃないかな....

「ふぁ〜眠い〜、、、」

悠に会ってドキドキしてたはずなのに、樹に会った安心感から眠気が襲ってきて、口を開けて寝ていた。
〜数週間後〜

東京に戻った私はまた仕事に育児にと忙しい日々を送っていた。

「行ってきます!今日は定時であがれると思うよ」

「うん、分かった。
行ってらっしゃい、気をつけてね」

樹を見送った後は、莉乃の支度をして保育園へと送る。

その後、自分の職場である保育園へ出勤する。

今日は午後から研修の為、午前の活動を終えた後は、休憩も外でとることができる。

研修は好きではないが、外でお昼が食べられるなんて普段はない為、足取りは軽い。

ルンルンで何を食べようかと考えながら駅へと向かう。

オムライスかパスタ...
いや、がっつり丼ものか定食か...
甘い物も食べたいな〜。

食べ物で頭がいっぱいで名前を呼ばれていることに気づかなかった。

「...も!...おい、桃!もーも!」

「ふぁ?!」

人混みの中で腕を掴まれ、驚きすぎて自分でも聞いたことのない声が出る。

相手の顔を見て、さらに驚く。

「え、なんで...悠?!」

「何回も呼んでんのに、フルシカトかよ!」

「え、なん...え?ここ東京だよ?!」

「いや、分かってるわ!
仕事でこっちに来てたんだけど、終わったからこれから新幹線で帰るとこ。そしたら、桃に似た人見つけて、まさかとは思ったけど近づいたら本当に桃だった!」

「そんなことある?!この人混みで、この東京で!」

「いや、落ち着け。
俺もびっくりしてる。この後時間ある?」

「研修あるから、1時間くらいだけど」

「十分!どっか入ろうぜ!」

まだ頭がついてこない。こんな偶然ある?

1番近くにあったファミレスに入り、ポテトを食べながら

「あ〜びっくりしたわ〜!」

笑いながらも普通に話し出す悠。

私は未だ驚きすぎて、自分が何を注文したかも分からないままとりあえず来た目の前のコーヒーを飲む。

「ほんとにね。こんなことあるんだね」

「職場この辺なの?俺ここの競輪場、レースで何回も来てるよ?」

「そう、職場近いの。競輪場も近くにあるの知ってたけど、まさか会うと思わなかったからあんまり意識したことなかった...」

「まぁ、確かに、近くても会うとは思わないよな」

そこから私たちはお互いの仕事や家庭についてやんわり話した。

パスタを頼んだらしい私と、ハンバーグを頬張る悠。

どちらも家庭は円満、お互い幸せな家族を築けていたことに安心した。

「でもさ、お互い家族がいるって不思議な感じだよな。あの頃は上京とか自分の夢とか、そういう割合が大きかったから」

「そだね、私も学生だったし、自分の進路とか友だち付き合いとか。家族って遠いイメージだったからなー」

「でも、桃とは若いなりに本気だった。
好きだったよ」

あ、ほら、また。

真剣な表情。

でもそれは一瞬で

「ははは!若かった!いーな、若さ!」

って笑い飛ばす悠。

悠にはどんな思い出になってる?

って聞きたかった。

私は....

いや、今幸せな家庭があるのに聞く必要ない!

自分でブレーキをかける。

「そろそろ行かなきゃ」

「そーだな、行くか!
またさ、れんらくっ...」

言いかけてハッとする悠。

伝わってしまう。

悠が何を思ったか。

悠もブレーキをかけた。




昔もそうだった、何を考えてるかお互い言葉にするのが上手じゃなくて

言葉での話し合いとかできなくて

でも、表情とか仕草で何を考えてるか分かる時がある。

特に同じことを思っている時。

今もそう。

家族のこと考えたよね。

一緒。私も。

そしてもう一つ、

"連絡先は消す。もう連絡はとらない"

別れの最後に交わした約束。

それでいい。

「ごちそうさま、悠。ありがとう」

「おう、研修頑張って〜!」

お互い笑顔で別れた。

昔の思い出に引っ張られそうになるのを抑えて足早に研修へと向かった。

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