「……すみませんでした」

「いや、こちらこそ軽率だった」

「あの、もう落ち着きましたので……」

「本当か?」

ずずいっと覗き込まれてその近さに心臓が跳ねた。
智光さんに心配をかけてしまって本当に申し訳ない。しっかりしなくちゃ。

私はぐっとこぶしを握った。

「……大丈夫です。叔父さん叔母さんのところに私も行きます」

「いや、無理しなくていい」

「いいえ。だってこれは私の問題です。いつまでも逃げてちゃダメだと思うんです」

「これは逃げるとかそういう問題じゃないぞ」

「わかっています。さっきは動揺して泣いちゃいましたけど、やっぱり自分のことは自分でしたい。それに……いざとなったら智光さんが守ってくれるんですよね?」

不安だけれど期待を込めて智光さんを見る。
ぽふんと頭に大きくて優しい手が降ってきて「当然だ」と力強い言葉が私を包んだ。

智光さんは……智光さんだけは絶対に裏切らないって知っている。だからきっと怖くない。大丈夫。

助けてもらうばかりじゃなくて、自分のことは自分でなんとかしなくちゃ。きっぱりとけじめをつけて私の道を歩んでいかなくてはいけない。

そしてきちんと整理したあかつきには……。

――離婚してもいい

思い出すと胸が苦しくなる。
本当に離婚しないといけないのだろうか。

智光さんのことを思ったらきっとそうすることが一番いいんだろう。私というしがらみから解放して、智光さんにも幸せになってもらわなくちゃ。

そうやって自分を納得させようとするのに、どうしても胸がズキンと痛んだ。

まだ始まったばかりの生活なのにもう離れがたくなっている。智光さんを好きだという気持ちが以前にも増して大きくなっている気がする。

それは紛れもない事実で。
智光さんのプライベートを知れば知るほど、彼の魅力に惹かれている自分がいることに気づかされるのだ。