ふわふわと夢のような時間が続いている。
けれど智光さんのマンションへ戻ったとたん、急に不安が押し寄せてきた。わけもなくドクドクと胸を打つ鼓動は次第に激しさを増していく。

まだ婚姻届けは出していないけれど、これから智光さんと暮らしていくんだ。そのことは緊張すれど嬉しいことに変わりはないのだけど……。

私が結婚することに叔父さん叔母さんはどう思うのだろう。

家を飛び出してからもう五日は経っているし、さすがに旅行からは帰ってきているんじゃないかと予想する。

荷物だって置きっぱなしだし。……まあ、持ち出すほどたくさんの荷物はないけれど。でも両親の形見とか写真くらいは取り戻したい。捨てられてなきゃいいけど……。

「――え、やえ」

「あっ……」

「どうした? 顔色が悪い。無理をさせすぎたか?」

智光さんは気遣うように私をソファへ誘導した。

「何か心配事でも?」

包み込むようにそっと手を握ってくれる。
智光さんの大きな手はとてもあたたかくて優しい。
激しく脈打つ鼓動が少しだけ落ち着きを取り戻した気がした。