「やえ、口にソースがついてる」

「えっ、やだっ」

ペーパーで拭うも「そこじゃない」と言葉と共に智光さんの綺麗な指が私の口端をなぞる。触れられた驚きと、さらにその指をぺろりと舐めるしぐさに、顔から火が出そうなほどに動揺した。

「ごちそうさま」

「えっ、あっ、おそまつさま、いや、えっ?」

大慌ての私とは対照的に、智光さんは可笑しそうにククッと笑った。

なにが「おそまつさま」だよ、私のバカバカ。
恥ずかしすぎる。
穴があったら入りたいくらいだ。

「くくっ、やえって本当に可愛いな」

どうやらツボってしまった智光さんは顔を背けて肩を震わせる。
私は真っ赤になった顔のほてりがおさまらず両頬を押さえるけれど、一向に熱が引く気配はない。

「も、もう、笑いすぎです」

「くっ、ははっ」

「智光さん~~~」

恥ずかしいけれど、智光さんがこんな風に笑うなんて知らなくて。そんな姿が見られただけでも恥ずかしい思いをした甲斐があったかもなんて考えてしまうあたり、私は完全に智光さんに心を持っていかれている。

ああ、ずっと一緒にいられたらいいのに。

幸せな気持ちの中、はっと思い出す。

――離婚してもいい

あの言葉が頭の片隅に燻っている。
調子に乗るなよと私を戒めるかのように。