「敦子さんにお願いしてもいいですか?」

「ああ、もちろん構わない」

「敦子さんはお母さんみたいな人なんです。いつも私のことを気にかけてくれて。智光さんと結婚するって言ったら絶対驚きますよ」

「そうか、じゃあ反応が楽しみだな」

「智光さんは……いいんですか? 結婚相手が私でも」

「何も問題ない。何か問題があるなら言ってくれ」

問題なんてあるわけない。問題だらけなのは私の方なのに。私の家庭環境のことでもしかしたら智光さんに嫌な思いをさせちゃうかもしれないのに。

「私、両親いなくて……叔父さん叔母さんの家に居候してて、お金も全然持ってないし、料理も下手くそだし智光さんにふさわしくな――」

「やえ」

凛とする声にいつの間にか下向きになっていた視線を上げると智光さんとバチッと視線があった。綺麗な瞳に見つめられて口をつぐむ。

智光さんの大きな手が優しく頭を撫でる。

「それ以上言わなくていい。俺は全部知っているから。気負うことはないんだ。ここで自由に生きてくれ。これからはやえの好きに生きていいんだからな。もしもこの先俺との生活が嫌になったら離婚してもいい」

「離婚……」

「まあ、しばらくは結婚していた方がいいだろう。すべてカタがついて何も懸念事項がなくなれば、その時やえはどうしたいか決めたらいい」

ズキッと胸が痛んだ。

今から結婚するのに離婚してもいいだなんて。やっぱり智光さんは慈悲で私と結婚してくれるんだ。そんなの申しわけなさすぎる。

自由に生きていいって言うけれど、私だって智光さんに自由に生きてほしい。私なんかに囚われないでほしいのに。