そんなことを思っているなど杞憂のように、智光さんによってどんどんと結婚の準備が進められていく。

目の前にペラリと差し出された婚姻届に胸がドクンと高鳴った。

婚姻届を初めて目にした。
夫の欄には智光さんの名前が書き込まれている。
妻の欄は空白で、まさに今私が書き込もうとしているところなんだけど……。

ただの書類なのにこんなにも緊張するとは思いもよらなかった。

一度大きく深呼吸してから、『幸山やえ』と一画一画丁寧に書いた。

これを提出したら、智光さんと夫婦になる。
なんだか全然実感がわかないけれど、もう時は動き出してしまった。

「ここの証人欄はどうしたらいいんですか?」

「俺は父に書いてもらおうと思っているが、やえは頼みたい人いる?」

「頼みたい人ですか……」

ふっと思い浮かんだのは敦子さんの顔だった。
敦子さんは私が入社したときからとてもよくしてくれていて、いつだってお母さんのように気にかけてくれるとても大事な人。

――くれぐれも変な男には引っ掛からないでね

釘を刺されたあの日の記憶がよみがえる。

智光さんと結婚すると伝えたらどんな反応をするだろう。きっと驚くだろうけど、喜んでくれるだろうか、それとも……。