頭を振り必死に抵抗していると、チッと舌打ちと共に一瞬力が弱まった。今だ、と思った瞬間――。

ブチッ――

何かが破れるような音と共に、弾け飛んだブラウスのボタンが目の前をスローモーションのように落ちていく。

「え……」

「いい眺めだぜ」

私に馬乗りになりながら舌なめずりをするお兄さんは獰猛な野獣のように目をギラつかせ、はだけた胸元を舐め回すように凝視する。

力任せに破られたのだ、ブラウスを。

ぞわり、と体が震える。
このままでは犯される――。

「やめてっ! 触らないでっ!」

必死に暴れもがいてもビクともしない。
男性の力にはかなわないのだろうか、このままお兄さんに犯されるくらいならいっそ死んだ方がマシ――。

右手に何かが触れた。いつも会社に持って行っているバッグだ。
必死に手繰り寄せ、これでもかと力いっぱい振り上げた。

「ぐっ……!」

お兄さんの横面が歪む。呻き声と共にほんの少しよろけたその隙に、私は力を振り絞ってお兄さんを突き飛ばしそのまま脇目もふらず全力で家を飛び出した。

外はすっかり暗くなり雨が降っていた。
しとしと降る雨の中、とにかく逃げた。
何も考えずにとにかく走る。

裸足で飛び出して来たことも、胸元がはだけていることも、どうでもよかった。お兄さんをぶん殴ったバッグは右手に握ったままだった。