「お前ってほんとお人好しだよなぁ。良いように使われてるだけなのに」

「そ、そんな……」

「うちにとっちゃお前は金を落としてくれる女神なのよ。知ってるか? お前を引き取ったのだって、お前の両親の保険金目当てだからな。まあ、あのクソババアにかかりゃもうこれっぽっちも残ってないだろうけどなぁ」

お兄さんの言っている意味がわからなかった。
いや、わからなかったんじゃない。
そんなこと認めたくなかった。

叔父さんと叔母さんは、高校生で路頭に迷いそうだった私を受け入れてくれて、ちゃんと高校を卒業するまで通わせてくれた。だから私は感謝の気持ちでこの家の家事も担ってきたし、給料も半額渡していた。

それが辛くなかったかといえば嘘になるけれど、それでもいつか家を出ることだけを夢見て理不尽なことだって受け入れて我慢してきた。肩身の狭い思いだって、悔しいって思いながらも乗り越えてきた。

それなのに、私が毎月コツコツ貯めた貯金も、給料も、両親の遺産もすべて、私の知らないところで勝手に使われていただなんて。

悔しすぎて涙も出ない。
ただこれが現実なのか、お兄さんは嘘をついているんじゃないだろうか、もしかしたら悪い夢でも見ているんじゃないか、そんな現な気分でお兄さんを見やる。

「いいねぇ、その顔。苦渋に満ちた顔、そそられる」

お兄さんはニヤリといやらしく笑うと親指で口元を拭いながらこちらへ一歩近づく。
ガシッと腕を掴まれ、その冷たく気持ち悪い感覚に咄嗟に身を引いた。けれど掴まれた腕はびくとも動かない。