「田辺さん、安川さん、ありがとうございます」

お礼を言えば、「あー」と頭を抱えだす田辺さん。

「社長もそんなやえちゃんのことが好きなんでしょうねぇ」

「ね、すみに置けないわよね」

「ええっと……」

なんだか私の気持ちが置いてきぼりにされて三人で盛り上がり始めてしまった。けれど雰囲気から、私は皆さんに愛されているような、そんなくすぐったい気持ちに胸が熱くなる。

私、やっぱり久賀産業が好きだ。社長も敦子さんも田辺さんも安川さんも。皆とてもいい人だもの。本当に恵まれている。

三人の盛り上がりをニコニコと眺めていたら、ふいに敦子さんの視線が鋭くなる。

「やえちゃん、あなたわかってないわね」

「何がですか?」

「確かに社長は皆に優しいけど、やえちゃんは特別だと思うわ」

意味が分からなくて首を傾げる。
そんな特別なことなんてないと思うけれど。

「いいよ、やえちゃん。そのまま気づかなくて」

「社長にやえちゃんを盗られてたまるかよ。もう少しやきもきさせてやりたい」

「いやいや、皆さん、何言ってるんですか。もう、私のことからかいすぎですよ」

ふふっと笑ってみたけれど、心臓がドキンドキンと騒ぎ出す。

そんなことを言われたら意識してしまうではないか。
社長が私のことをどう思っているか、ではなくて。
私が社長のことを好き――なんだって。
私のこの「好き」は恋愛の好きなんだって、そう思ってしまったら止まらなくなりそうで、私は無意識に胸のあたりをぎゅうっと握りしめていた。