午後からの業務が始まり、私はパソコンや携帯電話を持って自席に戻った。
妙に気持ちが軽いのは、社長と一緒に過ごしたからだろうか。
午後からの社長はというと、現場へ出向いたり来客対応をしたり、何かと忙しそう。それなのに午前中は私に合わせてくれたことを申し訳なく思う。

「あー、やえちゃんやっと戻ってきた」

「どうかされましたか?」

社長室でやっていたのはいつもの仕事。特命業務といいつつ普段となんら変わらない作業をしていたので、私がいないことで特段困ることはなかったと思うんだけど。

「社長に連れ込まれたのかと思って心配したよ」

「えっ、まさか」

「何か変なことされなかった?」

「されてないですよ」

私は首をブンブン横に振る。私のせいで社長にあらぬ疑いがかけられているなら全力で否定しなくてはいけない。社長から親切しか受けていないのだから。

「ほらほら、田辺さんも安川さんも、午前中やえちゃんがいなくて寂しかったからって、社長にヤキモチやくんじゃないの。やえちゃんが困ってるでしょう」

敦子さんがケタケタ笑いながら二人を諫めてくれる。

「……ヤキモチ?」

私はキョトンとしながら敦子さんを見るも、敦子さんはニヨニヨと口元を押さえながら「だってねぇ」と田辺さんたちに目配せした。

「俺たちのやえちゃんが社長に取られるのが何か悔しいんだよ」

「そうそう、結局イケメンかよってね」

「ええ……なんですかそれ。私、別に社長とは何でもないですし」

社長のことは好きだけど、社長は私のことをそういう目では見ていないでしょう?
確かにすごく親切で優しいけれど、それは私にだけじゃなくて他の社員さんにもそうだし。私が泣いてしまったから、それでかくまってくれただけなのにな。

田辺さんと安川さんはおいおいと泣く真似をする。二人とも私よりだいぶ年上で奥さんも子供さんもいるのに、冗談ながらにも心配してくれることがなんだか嬉しい。