「俺もたまには料理してみようかな」
「いつもはどうしているんですか?」
「朝はコンビニのおにぎりとブラックコーヒー、昼はここ。夜は外食したり食べなかったり」
「社長って意外と不摂生……あ、いえ、ごめんなさい」
失言に慌てて口を塞ぐも、社長はくくっと小さく笑って頷く。
「そうだろう? 社長って言ったって肩書きだけだよ。それに一人暮らしともなるとこんなもんじゃないか?」
「そういうものでしょうか。私も一人暮らししたいんですけど、そんな感じになるのかな?」
目下の目標はあの家を出て一人暮らしすること。
すべてが自由になったら、社長みたいに朝はコンビニで買ったりするのだろうか。そんな自分が想像できなくて、でもやってみたい欲望も芽生えてワクワクする。
「一人暮らしするために貯金しています」
「そうか。立派だな」
「だから、お給料上げてください」
綺麗な所作で箸を運んでいた社長の動きが止まり、ポロリとご飯が滑り落ちた。
「なかなか厳しいことを言う」
「えっと、……冗談ですよ?」
肩をすくめれば、社長はくっくと笑い出した。
「そうか、まんまと騙されたな」
「ふふっ」
つられて笑うと、「やっぱり笑っている顔がいいな」と事も無げに言われて胸がきゅーんと締めつけられた。
これからはくよくよしない。
笑って過ごそう。