「お待たせしました」
社長のデスクにお弁当を置く。
デスク横には先ほどまで私が使用していた椅子がちょこんと用意されていた。
「狭くて申し訳ないが、ここで一緒に食べよう」
ひとつの机に椅子がふたつ。
お弁当もふたつ。
社長とこんなに近くでお弁当を食べるのはお花見のとき以来、二度目。
社長はお弁当の蓋を私の分まで開けて準備してくれた。
「わあ、今日はカニクリームコロッケだ」
思わず声を上げると、「好きなのか?」と尋ねられコクコクと頷いた。
「好きなんですけど、コロッケって作るのが難しくて」
挑戦してみたことはあるけれど、爆ぜてしまって上手く揚げることができなかった。それ以来、コロッケは市販品を買おうと決めている。
「俺は作ろうと思ったことすらないけど、幸山さんは家でよく料理するの?」
「はい、毎日料理してます」
「毎日? それはすごい。料理好きとか?」
「好き……かどうかは考えたことなかったです」
毎日料理をするのは作れと命令されているから。
ただ義務で作っているだけであって、私自身料理が好きかどうかは考えたことがなかった。