あたたかな気持ちのまま、パソコンに向き合う。お互いしばらく無言で仕事をこなした。カタカタと文字を打つキーボードの音と、室内に据えつけられたサーキュレーターの音しか聞こえない。
「やはり君は笑っている顔がいいな」
ふいに社長が口を開き、私は手を止めた。
「笑っている顔?」
「いや、なんでもない。またセクハラ発言した。忘れてくれ」
つと視線が交わったかと思うとすぐに社長はモニターへ向き合った。
けれど淡々と言われたその言葉は私の心の奥深くに浸透していく。淡々としていたのに、だ。
忘れようにも忘れられない。
だって……。
――笑っている顔がいいな
頭の中を何度も何度も反芻してドキドキと落ち着かなくなる。
自然と笑みがこぼれて……って、もう笑みというよりはにやけている気がする。
こんなに嬉しいことがあるだろうか。
それくらい幸せな言葉。
「ふふっ、嬉しい」
ぼそりと呟けば、それすらも聞き逃さず目尻を下げてくれた。
いつの間にか涙はすっかりおさまって心も落ち着きを取り戻していた。