赤く腫れぼったくなってしまった私の目を心配した社長は、その後、人目を避けながら私を社長室へ招き入れた。

その気遣いがまたありがたくて、本当に頭が下がる。

「頼みたい仕事もあったし、ちょうどよかった」

そう言って、社長は私を社長室に留めたまま、私の自席からノートパソコンや社内携帯、諸々を社長室へ運び込んだ。

社長自ら動かなくとも、と思ったけれど「そんな赤い目で出ていくと皆が心配するだろう」と言われて大人しく従っている。社長がパソコンを運んでいる姿もずいぶん物珍しい光景だと思うのだけど、社長はまったく気にしていない様子だ。

「あの、本当にすみません。ご迷惑をおかけして」

「気にしなくていい。誰だって泣きたいときはある」

「それはそうなんですけど。社長の前で泣いちゃって……恥ずかしいです」

「まあ、貴重な姿が見られたなとは思ったが……」

「え……?」

「いや、幸山さんはいつも幸せそうに笑っているから、そんな風に泣くこともあるんだな、と思っただけだ」

「私、幸せそうに笑えていますか?」

社長はモニターから視線を上げる。
じっと見据えられて、その綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。

「そうだな。少なくとも、会社での幸山さんはとてもいい顔をしている。皆もそう感じていると思うが……」

社長の言葉はすっと体に染みわたっていく。
たとえそれが社交辞令だとしても、社長から言われたことがとても嬉しかった。

「ありがとうございます。嬉しいです」

心があったかくなって自然と笑えた気がした。
社長の優しさはいつも私を包み込んでくれる。
だからこの会社で働くことが好きなのかもしれない。