ハリスとリリアナのふたりが転送されたのは、四足歩行の哺乳類タイプの魔物が多く生息する草原エリアだった。
 青々とした草と低木の生える平らな大地には湖も点在している。
 ふたりの狙いは当然依頼を受けた魔牛だったが、テオの場合はターゲットを絞らず、狩りを楽しみながら技量を上げることが目的だった。
 つまりこの日、リリアナたちとテオが同じエリアに居合わせたのは全くの偶然だったのだ。
 
 ハリスの的確な誘導とサポートにより大型の魔牛を危なげなく仕留めたリリアナは、勝利の余韻に浸る間もなくハリスから魔牛の捌き方のレクチャーを受けた。
 血抜きに内蔵の処理、素材となるツノと蹄の外し方、皮の剥ぎ方をわかりやすく説明しつつ、ハリスは手早く作業を進めていく。鮮度が命の魔牛の生肉はステーキ大にカットしたそばから「マジックポーチ」という魔道具の中へ入れていく。
 この袋は中が異空間になっていて大きな物や重たい物をいくらでも詰め込めるし、魔物の肉の鮮度も保ってくれる優れものの収納アイテムだ。

 全ての作業を終えて、さあどこでステーキを焼こうかとハリスと話しながら歩いていた時、リリアナの視界に地面に寝っ転がる人影とその上で動いている白くて丸い物が映った。
「ハリス先生、あれなにかしら」
 最初は冒険者が寝転がってペットと戯れているのかと思った。しかし、その冒険者が全く動いていないことに気付いたところでハリスとリリアナは慌てて駆けだした。
 向かった先には斧をしっかり握りながらも意識を失い、レオリージャの子供にネコパンチをくらいまくっている傷だらけの冒険者が倒れていたのだった。