どうも踊らされているようだ――そのことに気付いていたリリアナたちは、あえて乗っかったのだ。
 ブルーノ会長の誤算は、コハクの存在だろう。
 今回のミッションでリリアナとハリスは、ホテルの客室以外の場所でコハクと行動をともにしていない。

 コハクはとても優秀な諜報員として暗躍してくれている。
 レオリージャの知能が高いことは知っていたが、ここまでとは思っていないかったリリアナだ。

 関所で荷物検査をしている警備隊員に、休憩をとるからもしもまた怪しい動物がいたら引き留めておいてほしいと告げてその場を離れた。
 ちょうどこそへ、コハクがやって来た。
 ブルーノ会長がどこかへ行くことがあれば、後を付けてほしいと言いつけておいたのだ。
「コハク、お疲れ様」
「にゃーぉ」

 コハクの首から録音石を外し、木陰で他に誰もいないのを確認してから再生する。
『大変です! どこから情報が漏れたのか、ガーデンの捜査員たちが関所に陣取って隈なく荷物検査をしています。これは大きすぎて目立つので、今はやめておく方が得策です』
 ブルーノ会長の少々大げさな、芝居じみた声が聞こえた。
『では、どうする?』
 もうひとりの男の声がする。
『冒険者様、ひとまずこれは私が買い取るというのはいかがでしょう。いずれ、ほとぼりが冷めた頃にまた取引が再開できるでしょうし。その時がくればまたあちらに流せばいいかと』
 低い声が響く。
『いいだろう。こちらとしては金が手に入ればそれでいいからな』
『ではこれから金を持ってこさせますから、少々お待ちください!』
 ブルーノ会長の弾んだ声が聞こえたところで再生が終わった。

 ようやくブルーノ会長のおかしな言動の意味がリリアナにもわかった。
 彼はわざと取引を匂わせる噂を流して魔道具のペットの首輪を彷彿とさせる赤い石を巻いたインコを囮にした。リリアナや警備隊の目を関所に向けさせ、その裏でもっと大きなペットを「目立つからやめておいた方がいい」という理由で自分のものにしようとしているのだ。
 ガーデン管理ギルドの調査が入ると一報を受けた前後に大きな取引の話があり、この状況をうまく利用してやろうと思いついたのだろう。

 実は魔物を飼っているという秘密をもったいつけながらこっそり誰かに打ち明ける行為は、ブルーノ会長の自己顕示欲を大いにくすぐるに違いない。
 自分も捕まるかもしれないリスクを犯してまで手に入れたい魔物なのだろう。