「麺とクッキーはまあまあだったけど、ピザ生地とパンケーキは微妙だったわ」
 ソバの実を使った料理をさんざん食べ歩きしてホテルに戻る途中、リリアナは料理の感想を語った。
 ハリスが頷く。
「ピザ生地は表面をもう少しカリッと焼いてほしかったな。パンケーキは生地がボソボソしていてイマイチだった」
 ソバの実にかなり興味があるらしく、ハリスもリリアナに付き合ってあれこれ食べていた。
 感想はリリアナとほぼ一致している。

「ソバの実亭が一番だな」
「そう! ほんとそれ!」
 ハリスの意見にリリアナも同意する。昨日食事をしたヨアナの店のソバの実料理が、最もソバの風味や食感をうまく引き出していた。
 街を離れる前にもう一度ヨアナのソバ粉のガレットが食べたいと思うリリアナだ。

 ホテルに戻り、買ってきた生肉をコハクに食べさせたリリアナは、今朝のブルーノ商会でのやり取りをハリスに尋ねる。
「先生はブルーノ会長の態度をどう思う?」
「俺たちが訪ねる前から、明日の取引がバレても構わないと思っていた感じだな」
 その通りだとリリアナも頷く。
 ブルーノ会長に動揺した素振りはなく、余裕すら感じる笑顔だった。

 しかも昨晩同様、食事をしながらあちこち聞き込みをしたところ、出どころはわからなかったが明日の取引に関する噂がすでに広まっていたのだ。
「わたしたちにニセ情報を掴ませようとしたのかしら」

 ブルーノ会長が動揺していなかったのは、彼が噂を流した張本人で、リリアナたちが盗聴ではなく聞き込みで情報を得たのだと思ったからかもしれない。
 しかし録音石は確かに、取引は予定通りだと言う彼の声を録音している。
 盗聴が見透かされていたんだろうか。
 リリアナの思考はどんどん混乱してきた。