「そうですか。お手柄ですね! では警備隊にも協力を仰いで国境の関所でラシンダへ運ばれる荷物をよく点検しましょう」
 ここでソバ茶が運ばれてきた。
 湯気の立つソバ茶を一口飲んで、ブルーノ会長がにっこり笑う。
「私どもでは普通の動物とガーデンのペットの区別がつきませんので、おふたりにも明朝から関所に待機していただきたいのですが、よろしいですか?」
 ハリスがこれを了承し、ソバ茶を飲み終えるとあっさりブルーノ商会を後にしたことがリリアナには不可解だった。

 首謀者はブルーノ会長だとわかっているのに、ハリスはそのことには触れなかった。まだ泳がせるつもりなのだろうか。
 もちろん実際にペットを確認しないことには告発できないが、それにしてもブルーノ会長の態度も不可解だ。
 明日の取引のことを把握しているとこちらの手の内を見せたにも関わらず顔色ひとつ変えなかった。明日の積み荷に混ぜる予定だったペットを取りやめて、情報はガセだったことにするつもりかもしれない。
 今回のリリアナたちの行動でガーデン管理ギルドの調査が身近に迫っていると知り、ペットの取引を当分やめよう、あるいは金輪際やめようと思ってくれたのならそれでいい。
 しかし昨晩、録音石で聞いた『これが最後』『それにふさわしい取引』というブルーノ会長がどうも引っかかる。

 リリアナはモヤモヤした気持ちを抱えたまま、ハリスと朝市へと赴いた。
 今日は尾行はついていないようだが、歩きながらする話ではないため、ホテルに戻ったらハリスがどういうつもりなのか聞いてみようと思った。

「よしっ、ひとまず腹ごしらえよっ!」
「ああ、そうしよう」
 ハリスが苦笑しながら頷いた。