翌日、リリアナとハリスは再びブルーノ商会を訪れた。
 コハクは昨日たくさん働いてもらったため、今日はホテルの部屋で休ませている。
 
 出迎えたブルーノ会長のスーツの襟には、趣味の悪いデザインのべっ甲のブローチがつけられていた。
「お嬢さん、お目が高いですね。これは希少価値の高いレッドタイマイの甲羅で作った高価なブローチでしてね」
 応接室に向かいながらブルーノ会長の自慢話が始まる。
 リリアナの視線に気付いたからというよりは、このブローチの話をしたくてたまらなかった様子だ。
 
 レッドタイマイは、ガーデンの熱帯エリアに生息する大きなカメ型の魔物で、その名の通り甲羅が赤い。
 その甲羅から作る赤みがかったべっ甲は希少価値が高くて貴族の間でとても人気だと聞いている。しかし彼がつけているブローチは赤すぎる。
 温かみのある柔らかい色合いが魅力のべっ甲にわざわざ着色を施すことはあり得ない。だからこれも昨日の魔牛の角と同様、よく確認するまでもなく偽物だとわかってしまった。

 リリアナは愛想笑いと適当な相槌を打ちながら応接室へ入った。
 ソファに座るなりハリスが切り出す。
「我々の得た情報では、明日ペットの取引が行われるようです」
 さあ、ブルーノ会長はどんな反応をするだろうか。
 リリアナは正面に腰かける彼の顔をじっと見つめたが、動揺するような仕草は見せない。