『あのふたりだ。頼むぞ』
 低い声だがブルーノ会長ものだと思われる。

「やっぱり尾行は、ブルーノ会長の差し金だったのね」
 リリアナが呟くとハリスも無言で頷いた。
 食事に誘って時間稼ぎをし、その間に尾行役を手配したのだろう。

 次に会話が聞こえた場所は、ブルーノ商会の一室のようだった。
 ドアの開閉音の後、ブルーノ会長ともうひとり男の声がする。
『あちこちで聞き込みをしながら宿に入っていきました』
『ご苦労だった』
『明後日の取引はどうします?』
『予定通りだ。ただしこれが最後だな。それにふさわしい取引だからちょうどよかった。よろしく頼む』
『かしこまりました』
 コハクは、この部屋の窓のひさしかフラワーボックスにでも潜んでいたに違いない。レオリージャの知能が高いことは知っているリリアナだが、なんて優秀なんだろうかと感心しながら膝の上のコハクを優しく撫でる。

 ガーデンの魔物は、冒険者のことを自分の主人であると認めなければペットにはならない。
 ただ捕まえて無理矢理首輪を着けたとしても、首輪の効果は発動しない。
 圧倒的な力の差があって服従を誓ったり、懐いて心を許さなければ冒険者のペットにはならないのだ。

 冒険者に信頼を寄せて主従契約を結んだのに、そのペットを横流しして弱体化させたまま貴族の自己顕示欲を満たすための愛玩動物にするなど、断じて許してはならない。
 クアッと小さくあくびをするコハクの柔らかい毛を撫でながら、リリアナはこの一件の完全決着を心に誓った。