録音石という魔石がある。
 ガーデンの熱帯エリアに生息するオウム似のカラフルな鳥型の魔物・コダマ鳥から採れる石だ。コダマ鳥は、周りの音や声を真似るのではなく鮮明に録音し、再生する変わった能力がある。
 そのコダマ鳥の喉から稀に採れる石は綺麗な緑色をしている。これを特殊な製造方法で加工したのが録音石だ。

 コダマ鳥の数が少ない上に稀にしか採集できないため、きわめて希少価値の高い魔石で、ガーデン管理ギルドが録音石の製造方法を秘匿し流通を独占している。それを高値で各国の要人に売っているという噂もある。

 今回の潜入ミッションにあたり、録音石をギルドから借りた。リリアナは実物を見るのは初めてだ。革のベルトの装飾を装った緑色の小さな石を眺めていると、誓約書へのサインを求められた。
 この石を悪用したり横流した場合は、口がオウムのクチバシになる呪いにかかると明記されている箇所を読み、ゾッとしたリリアナだ。
 大食いの呪いだけでも厄介なのに、クチバシ!? 冗談じゃないわ、食べにくいじゃないの!
 そう思いながらサインをした。

 その録音石があしらわれたベルトをコハクの首輪の上に巻いて、別行動させていたという訳だ。
 録音石を借りた時に教えられた再生の呪文をハリスが唱えると、石から音が流れ始める。
 最初は雑踏の音が続いていた。
 途中でハリスとブルーノ会長の声が聞こえ始めた。これはブルーノ商会からソバの実亭へ向かう途中に交わしていた会話だ。
 リリアナはあの時コハクがどこにいるか把握していなかったが、しっかり後を付けていたらしい。
 そしてまた雑踏がしばらく続く。

『はい、また来ますね。ごちそうさまでした』
 リリアナの声が聞こえる。ソバの実亭から出てきた時の会話だろう。
 この後コハクは、ブルーノ会長を尾行したはずだ。
 するとその後すぐに、ボソボソとした声が聞こえた。