「この街を離れる前に、ぜひもう一度当店へお立ち寄りください」
「はい、また来ますね。ごちそうさまでした」
 食事を終えたリリアナたちをヨアナが見送る。
 
 外に出てみると、あたりはすっかり日が暮れて薄闇になっている。
 ブルーノ会長とはソバの実亭の前で別れ、宿の方向へと足を進めてしばらく経った時だった。
 刺すような視線を感じた気がして振り返ろうとするリリアナを、横を歩くハリスが小声で制した。
「このまま気付かないふりをして歩くぞ」

 ここで神妙な顔をして頷いては、尾行に気付いたことがバレてしまう。
「先生、ガレット美味しかったわね!」
 リリアナが明るく言うと、ハリスが口角を上げる。
「そうだな」
 その調子だと言ってくれているような微笑みに安心してリリアナも笑った。

 ふたりは宿に向かう途中の商店や酒場で、あえて大っぴらにペットの違法取引に関する聞き込みをして回った。その間もずっと尾行がついている気配を感じていたが、気付かないふりを続ける。
 聞き込みで得られた情報は、檻やカゴに入れられた猫や犬を見かけたことはあるが、それがガーデンの生き物かどうかはわからないという内容ばかりだった。
 ガーデンの魔物の見分け方は、赤い石がはめ込まれた首輪を着けているか否かだが、ガーデンに興味のない者たちはそこまで知らないため、動物たちの首輪に注目しないのだろう。

 ガーデン管理ギルドが手配してくれた宿に到着した。街で最も高級な宿のため、盗聴されたり賊に寝込みを襲われたりする心配はなさそうだ。
 部屋は当然別々に取ってもらった。リリアナが女性だからというのもあるが、ハリスのいびきがうるさすぎて眠れないという理由のほうが大きい。
 3階のハリスの客室でくつろぎながら今日のことをおさらいする。