ハリスは単刀直入に、ペットの違法取引について切り出した。
「この街を経由してラシンダ王国へ輸出される荷物の中に、ガーデンの魔物が紛れているという情報が入りまして、調査に来ました」
「はい。事前にガーデン管理ギルドさんから調査協力の連絡がありましたので承知しております。商会をあげて全面協力しますので、徹底調査をお願いいたします」
 ブルーノ会長は笑顔の仮面の張り付けていて胸の内が読めない。

「心当たりは?」
 ハリスが聞くと、ブルーノ会長は首をひねった。
「ありませんねえ。国境を通過する全ての積み荷を当商会が把握しているわけではございませんので」
 リリアナにはブルーノ会長の言葉がどうも言い訳じみているように聞こえる。

 腹の探り合いに緊張して喉が渇いたリリアナは、目の前のティーカップに手を伸ばした。
 ひと口飲めば、香ばしい匂いとまろやかな甘みが広がる。
「これ、もしかして?」
「特産のソバの実を焙煎したソバ茶です」
 ブルーノ会長がにっこり笑う。
「やっぱりそうなんですね! 香ばしくて美味しいです!」
 初めて味わうソバの風味に感動するリリアナの横で、ハリスもソバ茶を飲んでいる。

「気に入っていただけたのなら、ソバ料理はいかがです? おすすめの料理店にご案内しますよ」
 ちょうど腹ペコだったリリアナが確認するようにハリスに目を向けると、頷いて了承してくれた。
「ぜひお願いします!」

 ブルーノ会長の案内で入った『ソバの実亭』は、無垢材のテーブルやイスで統一され、シンプルで落ち着いた雰囲気の飲食店だった。
「味はいいんですよ。しかし、この貧乏くさい店内をどうにかしろといつも言っているんですがねえ」
 ブルーノ会長は不満げに言うが、少なくとも貧乏くさいなんてことは決してない。リリアナはこの素朴な感じが逆に趣深くていいと思う。

「じゃあ、卵と生ハムのガレット5人前と、季節野菜のガレットを5人前。それに……」
「ええっ!?」
 リリアナが注文を始めるとブルーノ会長は目を丸くして驚き、ハリスは苦笑したのだった。