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 リリアナとハリスがマルドの街に到着したのは、翌日の午後だった。
 その足で、街の流通を取り仕切るブルーノ商会を訪ねる。ハリスが要件を告げると、突然の訪問にも関わらず小柄な男性がにこやかに出迎えてくれた。
「ようこそマルドへいらっしゃいました。私は商会長をしておりますセリング・ブルーノでございます。さあ冒険者様、どうぞ中へ」
 商会長はもっと高齢だと思い込んでいたリリアナは、彼の若さに面食らう。高く見積もってもせいぜい30代半ばといったところだろうか。ハリスよりも確実に年下だ。

 通された応接室は、よく言えば豪華、悪く言えば成金趣味の調度品が所狭しと飾られている。
 リリアナが暖炉の上に置かれた乳白色の大きな角を見ていることに気付いたブルーノ会長が、自慢げに鼻を膨らませた。
「これは大型の魔牛の角なんですよ。大変貴重な逸品でしてね、本当は売り物ではないのだと言う古美術商に何度も頼みに行って、特別に売ってもらったのです」
「そうでしたか……」

 待って! これ魔牛の角じゃなくて、ただの木だわ!
 リリアナも大きな商家の娘だ。しかも魔牛の角ならいつも実物を採集しているから、触って確認しなくてもひと目見ただけでこれが偽物だとわかる。
 しかしこれから話す本題とは無関係のため、苦笑してごまかしたのだった。