飛びながら上を目指し、時には魔法を駆使して魔物と戦いながら進む。
 ラッキーなことに、ここまでは凶悪な魔物に遭遇していない。中央が吹き抜けで螺旋階段がずっと続いているため、大型の魔物が待機できない構造であることが幸いしているのかもしれない。

 となると、もしや上にあるフロアにはすごい魔物が待ち構えているのかも……?
 どれぐらい時間が経っているのかよくわからないが、窓から差し込む光の加減からしてまだ夕刻ではなさそうだ。
 一抹の不安を抱えながらも、ついにそのフロアまで辿り着いた。
 階段を上り切って一息つくと、リリアナはゆっくりとした足取りでフロアに入っていく。

「――――!?」
 目を覆いたくなる光景に思わずフロアから逃げ出そうと後ろを振り返ったが、入り口が消えていた。
 閉じ込められている。上へ向かう階段もない。
 つまり、コイツらと戦って倒さなければ先に進めないということだろう。

「レオナルド・ジュリアーニめ。性格悪すぎでしょ~~っ!」
 大声で叫ぶリリアナの目の前に、昆虫型の魔物たちがうごめていた。
 
 ここまで気持ちよくスイスイ上らせて、あと少しと期待させたところで苦手な魔物を出してくるとは。
 ハリスが以前挑戦した時に、1匹のオークがとんでもない大食いでいくら料理を作っても満腹にならなかったと言っていたのも同じだろう。

 仕方ない。
 ついに秘策を使う時がきた。

 リリアナはポーチから瓶を取り出した。
 フタを開けると瓶の口を傾け、コロコロ出てくる白い球体を手のひらにのせる。
 今朝、ハリスたちと準備のために赴いた湿地帯エリアで獲得したミスティの霧玉だ。
 
 本来ならば、自分に使おうと考えていた。
 霧になってスイスイ塔の中を飛んでいこうかと。しかしそれには様々なリスクがある。
 霧の状態で壁や扉をすり抜けられるのかわからないこと。
 最上階までたどり着いたとして、レオナルドが咄嗟に魔物が侵入してきたと勘違いして強力な火魔法を放ったら死んでしまうこと。
 霧から元に戻った時に丸裸であること。

 ハリスには無理は禁物と言われているが、もしも時間切れ寸前になったら一か八か使ってやろうと思っていた秘策だった。
 しかし性格の悪いレオナルドのことだ。
 このフロアの魔物たちだけは全て倒さないと、たとえ霧になったとしても先に進めない仕様になっている可能性が高い。

「だったら、あなたたちが霧になりなさい!」
 そうこうしている間に目前まで迫ってきた大きな虫たちに向かって、リリアナは霧玉を投げつけた。