力なく下ろされた手だったが、拳を強く握り締め瞳に宿る光を当てるように私の目を見つめた。
「いいか、エリーザ。次の舞踏会は、俺の言う通りにしろ」
「い、いきなり何を仰るんですの?」
「それができないと言うのなら、己で己を見定めろ」
「だから、何を――!」
理由を求める私の言葉を遮るように、触れるか触れないかの寸前のところで唇に殿下の綺麗な指が制してきた。
「次の舞踏会で、サラを陥れろ」
「……!?」
冷静な声でそう言われても、言っている内容がとんでも無さ過ぎて理解が全く追いつかない。
今回の人生、狂っているとしか思えない。
最初からそうだ。殿下から優しい言葉を貰ったり、一緒に同じ時を過ごしたり……ありもしない幸せに踊らされていた。
私は一体どんな道を進んで、どんな死に方をするのかもう分からない。
「治療薬として開発された薬を母上に与えていた。だが、それに毒が仕込まれていてな。それを作ったのがサラ、あいつだ。少量ずつ薬に混ぜ込んでいたお陰で大事には至らなかったがな。これまでサラに色々としていたようだが片目を瞑り、汚名返上のための機会を与える」
それだけ言って殿下は踵を返して歩き出した。