久しぶりの穏やかな気持ちにそっと瞼を閉じる。
真っ直ぐに私を見つめて優しく微笑む殿下の姿を思い浮かべては、ごめんなさいと小さく呟いた。
「その言葉は一体誰に向けた言葉なんだ?」
暫く聞いていなかった透き通るのに芯があるその声に目を開けた。
薔薇の花びらが舞い散る庭園でゆっくりとこちらに歩いてくるその姿は、まるで絵画の中から出てきたかのように美しい。
「殿下……」
「サラから全て聞いている」
「……なんの事かさっぱりですわ」
殿下から視線を逸らして、小さく俯くしかない。
今更ここで誤魔化しても、殿下にはすべてお見通しなことぐらい分かっている。
信じてもらえない。こんなことしたくてしているんじゃないなんて言ったって、悪役令嬢の私には信じる価値なんて無いのだから。軽蔑した目で見つめるんでしょう?
覚悟を決めて、殿下を見ると苦しそうな表情を浮かべていた。
「俺は……」
大きく一歩踏み出してきた殿下は、私に手を伸ばしてきたが寸前の所でその手を下ろした。