あれから数週間が過ぎ、私は心ないままに生活していた。正確に言えばその日過ごした記憶が曖昧になることがほとんどだった。

 でもそれには波があって、良い時はしっかりと記憶が……残酷で嫌な記憶が保たれていた。

 知らぬ間に取り巻き達と共に過ごし、サラとは一切関わらなくなるどころかまた今までのように虐める記憶が。

 何かがおかしいとは分かっているのに、言う事や行動が自分の意志とは違うようになってしまう。

 良いのか悪いのか、サラを虐めている間は殿下は学校を休み公務に勤しんでいてこの事実を目の当たりにしていない。戻ってきたらきっとサラはこれまで受けてきた仕打ちを全て殿下に話して、私は成し遂げようとしていた悪役令嬢になれる。
 
 違う。こんな私は、私なんかじゃない……このままでは、最悪な結末をまた繰り返してしまう。

 何かが噛み合うように私の中に溶け込んでは消えてくれない。

「まあ!エリーザ!よく似合っているわ」

 ダニエラ様の小さくはしゃぐ声にはっと我に返る。

 今度行われる舞踏会に殿下の婚約者として呼ばれた私は、ダニエラ様が何点か選んだドレスの試着に王宮にやって来ていた。

 鏡に映る自分の姿は綺麗なドレスを身に纏っているというのに、冷たく愛想の無い顔が映っていた。

「ダニエラ様、本当に御体は大丈夫なのですか?」

「心配しないで。こんなに元気なんだから」

「そう、ですか……」

 次のドレスを用意し始めるダニエラ様は、元気にしか見えないけど、どこか無理をしているように見えるのはどうしてかしら。