これまでの人生で、二人が強く想いあうことで聖女の力が強まっていくのを見た。

 例え自分の心が傷付いたとしても、大切な人の悲しむ顔はもう見たくないから私は立ち上がる。

「私、お茶会に戻るわね」

「少し心配だから、途中まで送るよ」

「ありがとう」

 ファルスと共にこうして歩くのもいつぶりかしら。

 あれだけ小さかったのに、今ではもうこんなに私の背も超して凛々しくなったわね。

「いつも兄上からエリーザ姉様のことを聞いているよ」

「へ?!」

「まあ、普通婚約者のことを気にしない男はいないよね」

「一体どっどんなことを?!」

 悪口なのか、何なのか。

 悪役令嬢を演じているとは言っても、フォルスから印象を落とされるのは結構嫌なんだけれど!

 婚約破棄されればフォルスとの関係もなくなっちゃうけど、でもやっぱり可愛い弟にはいい姉でいたかったのに。

「兄上は――」

「一体こんな所で何をしている」

 今一番聞きたい内容を切り捨てるように声を掛けられ、はっと前を向く。

「あ!兄上!」

 懐いた子犬のように尻尾を振って駆け寄っていくフォルスとは違って、私は声を掛けてきた……殿下を前に唇を噛み締めた。

「エリーザ姉様と丁度会って、色々と話していたんだ」

「余計な事喋っていないだろうな?」

「あ、うん。多分?」

「はあ……」

 重たい溜め息を吐いた殿下は私の元へと近づいてきたかと思えば、強引に手を取ってきた。