「いいですか、お嬢様」



土曜日の昼下がり。

聖司くんは少し震えた声で定型文を言う。

これから始まる本番のパーティーに向けてしっかりドレスコードに着替えた私たちは、会場近くの公園のベンチにて作戦会議をしていた。



「絶対に目立つようなことはしないでください。誰かが困ってる時に手を差し伸べようというところはお嬢様のいいところですが、今日だけはグッと堪えてとにかく静かに、トラブルなくお願いします。それから、例の人がいても決して近づかず、なるべく距離をとって行動しましょう。いいですか、これは何度も言ってますが話しかけようなどという余計な気を起こすことは絶対に、」

「はーいはいわかったわかった。聖司くんパパを見つけても近寄りません。話しかけません。遠くからこっそり見守ります」


聖司くんの、いつもより倍速・倍量の注意事項を受け流して私は立ち上がった。

「さーて、そろそろ行きますか!」

「え…?もう行くんですか…?」

いつもの獰猛な獅子みたいな瞳はどこへやら、巨大な何かに怯えるハムスターみたいな瞳で私を見上げる聖司くん。

「いつもの覇気はどうしたの、聖司くん!豹柄パンツが泣いてるぞ!」

「あ?」

「すんません」