聖司くんは再び前を向くと、夜空に言葉を紡ぐ。


「清美坂真桜は、ここでたくさん愛を貰って育ってきたんですね」


またらしくないセリフが聞こえた時、なぜか聖司くんの背中が切なく見えた。

見ちゃいけないものを見ちゃったような、そんな気がした。


「あ…あー、まぁそのせいで学校で浮いちゃってるし、お嬢様らしくなれないんだけどね!あはは」


慌てて明るい声で誤魔化す私に、聖司くんは優しい声を返す。


「…いいんじゃないですか。今のままで」


言い逃れできないくらい、


「……え?」


胸が高鳴った。


私の動揺を感じ取ったのか、聖司くんが空気を変えるように軽く咳払いをする。

「…まぁ評価のための努力は怠らないでいただきたいですが」

そう付け足した声は、いつもの執事らしい声。

……今。

ほんの一瞬。

執事の聖司くんじゃなく、普通の16歳の『鶴城聖司』という男の子がいた気がした。


「……」


執事になる前の聖司くんは、どんな人生を歩んできたんだろう。

毎日一緒に生活してきたから、愛用の歯磨き粉とか、機嫌がいい時に出る鼻歌とか

聖司くんのことはそれなりに知ってるつもりだ。

でもそれは執事という立場があった上での聖司くんで。

私は、目の前を歩く男の子のことが無性に知りたくなった。