「……聖司くん」

「なんですか」


私の問いかけに聖司くんは振り向くことなく、ぶっきらぼうに返事をよこす。


「…………ありがとう」


小さく頼りない声をこぼした私に、聖司くんは背中を向けたままふ、と笑った。


「どういたしまして」


聖司くんの声が心なしか柔らかく、素朴に聞こえた。

いつもより近くに感じるのは、なんでだろう。

カエルが鳴きわめく月明かりの坂道をくだりながら、聖司くんの背中を追いかける。

……心地いいな。

なんか、久しぶりに田舎に来たからかな。

帰りたくないな。

……この時間、ずっと続けばいいのにな。




「いいところですね」


不意に聖司くんが呟いた。

聖司くんにもそういう情緒を感じる心があったんだ、なんて失礼なことを思う。


「でしょ?昔は蛍もいたんだよ。お父さんと夜、よく見に来たなー……あっ!あそこの木、登ってヒーローごっこしてお母さんによく怒られたんだー!それとこの辺にでっかいカエルがいて、連れ帰ってやっぱり怒られたしー…」

「……ふ」

「?」

また笑った?