そして、車に揺られて1時間。

私たちは目的地に到着した。

あるのは田んぼ、田んぼ、山、田んぼ、ポツンと民家。

カエルたちによる耳を塞ぎたくなるほどの大合唱。

……本当に来てしまった。


私は空気を思い切り吸い込んで、吐き出す。


はー…


「落ち着くー…」


落ち着き過ぎて、涙が出てくる。


田舎特有の夜の空気を思う存分堪能していると、後ろからポニーテールの尻尾を掴まれる。

「みゃっ!?」

「…感傷に浸ってないで早く行きますよ、お嬢様」

「もーせっかちだなー!これだから都会っ子は!」

「時間がねぇんですよ早く案内してください」

「はいはいこちらでございまーす」


全然感傷に浸らせてくれない執事に促されて、私はお父さんの元へと歩き出す。


街灯はない。でも暗くはない。

都会のように眩しいものがないこの町には、月明かりだけで十分歩ける。

私は田んぼと田んぼに囲まれたあぜ道を、鼻歌まじりに歩いていく。

その後ろを執事服じゃない、普通の男の子みたいな聖司くんが静かについてくる。

……なんか変な感じ。

なんか、くすぐったいなー。