聖司くんの瞳が僅かに揺れた。


「……そうですか」


そう静かに呟くと、少し考える仕草をする。


あ……やっぱ言わなきゃよかったかも。

ごめん気にしないでって言おうとした時、聖司くんが立ち上がって歩きながらどこかに電話をかけ始める。


……?どこに電話してるんだろ?


「……お疲れ様です。鶴城です。至急一台お願いできますでしょうか……いえ、正面ではなく、寮の裏手のー……」

やりとりを終えて電話を切った聖司くんは私に振り返って言った。


「行きますよ」

「え?行くって、どこに…?」

「お父様のところです」

「え!?いっ、今から!?」

「ええ」

言いながら聖司くんは手際よく身支度を始める。

「え、え、でも、でも寮則で夜中の外出は……」

この寮の規則は厳しい。

夕食後に外出する場合はよほど緊急の場合のみで、事前に寮の管理人に理由と場所や時間を事細かに記した書類を提出してハンコをもらいそれを理事長並びにクラス担任にもハンコをもらって、そのあともなんか手続きがあったけど、忘れた。

とにかく、突然の夜間の外出はありえない。

この規則を破ると、茶会をサボるよりもずっと重いペナルティーが課されるはず…


不安な顔をする私に、聖司くんは少し悪い微笑みを浮かべて人差し指を立てた。


「こっそり行きましょう。お嬢様はそういうのお得意でしょう?」