「……それで?なんで逃げ出したりしたんですか?」

聖司くんは私のぴょぴょんぴょんのクッションをいじりながら興味なさげに聞いた。

「ん?だから茶会が苦手だからー……」

「違います」

聖司くんにはっきりと否定されて、ドキッとする。

「真桜お嬢様はバカですけど、嫌だからという理由で逃げることは絶対にされません」

「……」


全部お見通しだと言わんばかりの聖司くんの目から、私は目をそらした。


「山を越えてくるとおっしゃってましたね。昔お嬢様がお住まいになっていた所のことですか?」

「……」


聖司くんは押し黙る私の隣にしゃがんで覗き込む。


「今日、どうしても行きたかったんですか」


聖司くんの声音が、珍しく優しい。

その優しさに簡単に胸を打たれてしまった私は、言うつもりのなかった本当の理由を口にした。



「……お父さんの、誕生日で……」