「あの,何して,るんですか?」



恐る恐る,私からも声をかけてみた。

誰だろう,何してるんだろう,もしかしてずっと私の百面相を見ていたのだろうか。

聞きたいことが,ありすぎる。

少し待っても,答えが返ってこなくて



「……さあ?」



やっと返ってきた言葉も,そんなものだった。

また一段私の頭が下がる。

いつか地面につきそうだ。

さあ? って……

キャッチボール,もっと軽快に言葉を交わそう?!!

こくりと飲み込んで,深呼吸。



「あの……誰ですか」



そして,なんでわざわざ声を掛けてきたんですか。

私が訊ねると,彼はふと目を見開いて,嬉しそうに小さく笑んだ。

なに?

ドキンと,見たことのない表情に胸を打たれる。

素の,可愛めの顔ではない。

モテそうだなと瞬時に感じ,頬の熱は冷める。

もう。



「なぁに?」

「名前聞かれることって,中々無くて。竜田川 十和,竜田川 十和だよ。憶えておいて」



やけに機嫌のいい彼。

十和……くん?



「竜田川って……格好いいね。漢字書けるかな……」

「格好いいって,そこ?」



くすくす笑う十和くんに,何がそんなに楽しいんだろうと,私は首を傾げた。



「変な人……」

「あゆに言われんよ」



吹き出すような笑い声に,私はハッとする。

慌てて口を押さえると,その意図を察した十和くんはまた笑った。



「もう遅いよ」



初対面で,何で十和くんがこんなに楽しそうなのか分からない。

でもいいか,そう思わせる顔だった。



「十和くん,サボってていいの?」