『大切な人』なんて
彼の口から出てくると思わなくて、
思考回路が停止する。

嬉しさや驚きという感情じゃ形容しがたい
複雑な気持ち。

思考回路は愚か、体の動きまで
フリーズしてしまっていたみたいで、

悠希くんが目の前で
手を大きく振ってくれたことにより
現実世界に戻ってくる。


「大丈夫?急に黙り込んじゃうから
びっくりしたよ。」

「ごめんね、私もびっくりしちゃって
思わず黙っちゃった。

そんな風に言ってもらえて幸せ者だよ。
ありがとう、悠希くん。」


先程自身が告げた言葉を思い返して、
恥ずかしくなったのか
目を逸らし口を噤む。

そして、ぐるりと180度回った。


「俺ってば、
恥ずかしいこと口走っちゃったね。
でも、そういうことだから!
じゃあ今日はここで!また学校で!」

「あ!ちょっと!」


引き留めようとしたものの、
すぐさまパタパタと走り去っていく
悠希くん。

彼の後ろ姿を
見えなくなるまで見届けると、
次第に私まで恥ずかしさが込み上げてくる。

ただの思い違いだ、勘違いするな私!

……また、苦しい思いはしたくないから。

そう言い聞かせ、
彼のように私もその場を走り去って行った。