「美那穂ちゃん。
こんなのらしくないのわかってる。

だけど……俺じゃダメ?」


彼のそんな表情を私は見たことがなかった。

少しだけ眉を下げ、
申し訳なさそうなそれでいて
どこか切なげな顔のまま、
私の顔を覗き込むように見ている。

この表情を見た途端、
私の中の悩みが嘘みたいに解けて、
気がつけば口が勝手に動き始める。


「……い。」

「え?」

「ダメじゃない、よ。悠希くん。」


私は、隣に置いていた
自身のカバンの中を漁り、
悠希くんのために作ったカップケーキを
取り出すと彼に差し出した。


「これって……」

「手作りの、カップケーキ。」

「でもこれ、他の人に渡すやつじゃ……。」

「違うよ……違う。」


自身の気持ちを口に出そうとするたびに、
心臓が大きく悲鳴を上げて
この音が彼に聞こえてしまうのではないか
という不安が過ぎる。

だけど、今言わないと後悔する。

それに、
心の内を聞かせてくれた彼に今度は私が、
聞かせる番だから。