「あ、予鈴だね。戻る?」


そう言って
立ち上がった悠希くんを見上げて、
私は首を横に振った。


「私は……今日はサボる。
だから、悠希くん行っていいよ。」


メンタルがやられてしまった私には、
授業を受けようと思うほどの力は
残されていなかった。

まだ休んでしまうことで
今後に支障は出ないことが
わかっていたのもあり、この判断を下した。


「そっか……
じゃあ、俺もサボろうっと。」

「え?!」

「えって、
隣でそんなしょんぼりしてるキミを置いて
授業なんか行けないって。

それに、今授業を受けたとしても、
キミのことが気掛かりで
それどころじゃないよ?」


そう言いながら、
再び隣に座る悠希くん。

また、そうやって、簡単に私の心を動かす。

緩んだ頬を隠すように、
体育座りをして顔を隠す。


「なんか心なしか嬉しそうに見えるね、
キミ。」

「別に…?」

「そっかそっか!」


嬉しそうな顔で
こちらを見つめる悠希くんと目が合い、
反射的に逸らしてしまう。

チャンスだというのに、
結局バレンタインは渡せないまま、
授業の始まりを告げる鐘が鳴った。

先程まで下の階から
生徒の話し声が聞こえていたが、
次第に遠のき、辺りはシーンと静まり返る。