「お姉ちゃん、本当に大丈夫?」


 芹香は未だに清香のことが気になるのか、不安げに表情を曇らせている。
 清香は小さくため息を吐きながら、うっとりと目を細めた。


「大丈夫よ。式が見れないのは残念だけど。ちゃんと、言う通りにするから」


 なおも心配そうに清香を見つめている芹香の手を、東條がそっと握った。その途端、桜色をしていた芹香の頬が紅く染まった。


「行こう」

「……はい」


 そう言って芹香と東條は手を取り合い、ゆっくりと歩き始める。二人の周りを美しい桜吹雪が舞った。

 清香はベンチに腰掛けたまま、そっと目を瞑った。清香の目に映るのは桜吹雪の中、手を取り微笑み合う男女が二人。黄櫨染の装束に悠然と身を包んだ東條と、色鮮やかな小袿を華やかに着こなした芹香だ。


(あぁ……)


 清香が目を開けると、二人は真新しい制服姿へと変わっていた。一瞬、清香の心が小さく軋む。けれどその唇はすぐに、穏やかに弧を描いた。


(運命とは存在するのだな……)

 降りしきる桃色の花びらのなか、清香はそっとひとり、涙を流したのだった。