(こんなときに私ったら)


 己よりも大事な人の、大切な日を傷つけようとしていることが情けなかった。悔しさのあまり、目頭が熱くなる。清香はそっと俯きながら、眉間に皺を寄せた。
 すると、これまで黙っていた東條が身を乗り出した。


「俺の家のものを寄越しましょう」

「え……?」

「お姉さんのことはそいつに任せて、俺たちは入学式に行く。……大丈夫、信頼できる男だ。安心して良い。……如何でしょう?」


 東條の笑顔は穏やかだが、どこか押しが強い。芹香は少し迷う様な仕草をしたが、ややしてコクリと頷いた。
 清香としても二人にこれ以上迷惑を掛けたくはない。すぐに首を縦に振った。

 二人の返答を聞いて、東條は満足げな笑みを浮かべた。かつて国の頂点に立った記憶が魂に刻まれているのだろうか。どうやら現世にあっても、彼の性質はちっとも変わっていないようだ。


「お姉さん、家人にここに来るようにと伝えました。ですからここで、動かず待っていてくださいね」

「はい」


 東條からの指示に、清香は素直に頷いた。