(いけない……もう慣れたと思ってたのに)


 清香は眉間に皺を寄せながら浅い呼吸を繰り返した。

 この世に生を受けてもう十七年。前世で主従として共に過ごした期間より、芹香と清香、姉妹として過ごしてきた期間の方が長くなった。けれどふとした時、今のように姉として振る舞えなくなる。もう何年もそんなことは無かったというのに。


(東條さまのせいだ……彼に出会ってしまったから……)


 閉ざされていた清香の記憶の扉が、再び開かれてしまった。
 清香はそっと目を瞑る。まぶたの裏にはまだ、現世に生を受けてから、自分自身の目で見てきたものとは異なる景色が焼き付いていた。


「ごめん。何だか混乱しちゃったみたい……もう、大丈夫だから」


 そう言って清香は弱弱しく笑った。


「大丈夫じゃないでしょ?そんなにフラフラなのに……!無理しちゃだめよ」

「でも!早く行かないと学校……芹香の入学式に間に合わなくなっちゃう!」

「そんなのどうだって良いの!私にはお姉ちゃんのほうが大事なんだから」


 芹香はそう言って清香の肩をそっと抱いた。